日本における放射線リスク最小化のための提言 ドイツ放射線防護委員会

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    http://www.kankyoshimin.org/modules/blog/index.php?content_id=92



    ドイツ放射線防護協会と情報サービス放射線テレックスは、福島原発事故の発生後の日本において、放射線核種[いわゆる放射性物質:訳者注]を含む食物の摂取による被ばくの危険性を最小限に抑えるため、チェルノブイリ原発事故の経験をもとに下記の考察・算定を行い、以下の提言を行う。

    1.放射性ヨウ素が現在多く検出されているため、日本国内に居住する者は当面、汚染の可能性のある*サラダ菜、葉物野菜、薬草・山菜類の摂取は断念することが推奨される。 

    2.評価の根拠に不確実性があるため、乳児、子ども、青少年に対しては、1kgあたり4ベクレル〔以下 Bq:訳者注〕以上のセシウム137を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。成人は、1kgあたり8Bq以上のセシウム137を含む飲食物を摂取しないことが推奨される。 

    3.日本での飲食物の管理および測定結果の公開のためには、市民団体および基金は、独立した放射線測定所を設けることが有益である。ヨーロッパでは、日本におけるそのようなイニシアチブをどのように支援できるか、検討すべきであろう。

    考察と算定

    以下の算定は、現行のドイツ放射線防護令の規定に基づいている。  飲食物を通じた放射性物質の摂取は、原子力災害後、長期間にわたり、身体にもっとも深刻な影響を与え続ける経路となる。日本では、ほうれん草1kgあたり54,000Bqのヨウ素131が検出されたが、こうしたほうれん草を100g(0.1㎏)摂取しただけで、甲状腺の器官線量は次のとおりとなる(*1)。

    乳児(1歳未満):甲状腺線量20ミリシーベルト〔以下 mSv:訳者注〕(*2) 幼児(1〜2歳未満):甲状腺線量19.4mSv(*3) 子ども(2〜7歳未満):甲状腺線量11.3mSv(*4) 子ども(7〜12歳未満):甲状腺線量5.4mSv(*5) 青少年(12〜17歳未満):甲状腺線量3.7mSv(*6) 大人(17歳以上):甲状腺線量2.3mSv(*7)

    2001年のドイツ放射線防護令第47条によれば、原子力発電所通常稼働時の甲状腺器官線量の限界値は年間0.9mSVであるが、上に述べたような日本のほうれん草をわずか100g摂取するだけで、すでに何倍もこの限界値を超えることになる。原発事故の場合には、同第49条によれば、甲状腺線量は150mSvまで許容されるが、これはいわゆる実効線量7.5mSvに相当する(*8)。  それゆえ日本国内居住者は、当面、汚染の可能性のある*サラダ菜、葉物野菜、薬草・山菜類の摂取を断念することが推奨される。  ヨウ素131の半減期は8.06日である。したがって、福島原発の燃焼と放射性物質の環境への放出が止まった後も、ヨウ素131が当初の量の1%以下にまで低減するにはあと7半減期、つまり2ヶ月弱かかることになる。54,000Bqのヨウ素131は、2ヵ月弱後なお約422Bq残存しており、およそ16半減期、つまり4.3ヶ月(129日)後に,ようやく1Bq以下にまで低減する。

    長期間残存する放射性核種

    長期的に特に注意を要するのは、セシウム134(半減期2.06年)、セシウム137(半減期30.2年)、ストロンチウム90(半減期28.9年)、プルトニウム239(半減期2万4,400年)といった、長期間残存する放射性物質である。  通常、2年間の燃焼期間の後、長期間残存する放射性物質の燃料棒内の割合は、セシウム137:セシウム134:ストロンチウム90:プルトニウム239=100:25:75:0.5である。  

    しかしチェルノブイリの放射性降下物では、セシウム137の割合がセシウム134の2倍にのぼるのが特徴的であった。これまでに公表された日本の測定結果によれば、放射性降下物中のセシウム137とセシウム134の割合は、現在ほぼ同程度である。ストロンチウム90およびプルトニウム239の含有量はまだ不明であり、十分な測定結果はそれほど早く入手できないと思われる。福島第一原発の混合酸化物(MOX)燃料は、より多くのプルトニウムを含んでいるが、おそらくそのすべてが放出されるわけではないだろう。ストロンチウムは、過去の原発事故においては、放射性降下物とともに比較的早く地表に達し、そのため事故のおきた施設から離れるにつれて、たいていの場合濃度が低下した。したがって、今回の日本のケースに関する以下の計算では、セシウム137:セシウム134:ストロンチウム90:プルトニウム239の割合は、 100:100:50:0.5としている。  

    したがって、2001年版ドイツ放射線防護令の付属文書鷄表1にもとづく平均的な摂取比率として、1kgにつき同量それぞれ100Bqのセシウム137(Cs-137)とセシウム134(Cs-134)、およびそれぞれ50Bqのストロンチウム90(Sr-90)と0.5Bqのプルトニウム239(Pu-239)に汚染された飲食物を摂取した場合、以下のような年間実効線量となる――

    乳児(1歳未満):実効線量6mSv/年(*9) 
    幼児(1〜2歳未満):実効線量2.8mSv/年(*10) 
    子ども(2〜7歳未満):実効線量2.6mSv/年(*11) 
    子ども(7〜12歳未満):実効線量3.6mSv/年(*12) 
    青少年(12〜17歳未満):実効線量5.3mSv/年(*13)
    成人(17歳以上):実効線量3.9mSv/年(*14)


    現行のドイツ放射線防護令第47条によれば、原子力発電所の通常稼働時の空気あるいは水の排出による住民1人あたりの被ばく線量の限界値は年間0.3mSvである。この限界値は、1kgあたり100Bqのセシウム137を含む固形食物および飲料を摂取するだけですでに超過するため、年間0.3mSvの限界値以内にするためには、次の量まで減らさなければならない。

    乳児(1歳未満):セシウム137 5.0Bq/kg 
    幼児(1〜2歳未満):セシウム137 10.7Bq/kg 
    子ども(2〜7歳未満):セシウム137 11.5Bq/kg 
    子ども(7〜12歳未満):セシウム137 8.3Bq/kg 
    青少年(12〜17歳未満):セシウム137 5.7Bq/kg 
    成人(17歳以上):セシウム137 7.7Bq/kg


    評価の根拠に不確実性があるため、乳児、子ども、青少年に対しては、1kgあたり4Bq以上の基準核種セシウム137を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。

    成人は、1kgあたり8Bq以上の基準核種セシウム137を含む飲食物を摂取しないことが推奨される。  国際放射線防護委員会(ICRP)は、そのような被ばくを年間0.3mSv受けた場合、後年、10万人につき1〜2人が毎年がんで死亡すると算出している。しかし、広島と長崎のデータを独自に解析した結果によれば(*15)、その10倍以上、すなわち0.3mSvの被ばくを受けた10万人のうち、およそ15人が毎年がんで死亡する可能性がある。被ばくの程度が高いほど、それに応じてがんによる死亡率は高くなる。
     

    (注)
    *1 摂取量(kg)x放射能濃度(Bq/kg)x線量係数(Sv/Bq)(2001年7月23日のドイツ連邦環境省によるSV/Bqの確定値に基づく)=被ばく線量(Sv)。1Sv=1,000mSv。たとえば E-6とは、正しい数学的表記である10-6(0.000001)の、ドイツ放射線防護令で用いられている行政上の表記である。
    *2 0.1 kg x 54,000 Bq/kg x 3.7E-6 Sv/Bq = 20mSv
    *3 0.1 kg x 54,000 Bq/kg x 3.6E-6 Sv/Bq = 19.4mSv
    *4 0.1 kg x 54,000 Bq/kg x 2.1E-6 Sv/Bq = 11.3mSv
    *5 0.1 kg x 54,000 Bq/kg x 1.0E-6 Sv/Bq = 5.4mSv
    *6 0.1 kg x 54,000 Bq/kg x 6.8E-7 Sv/Bq = 3.7mSv
    *7 0.1 kg x 54,000 Bq/kg x 4.3E-7 Sv/Bq = 2.3mSv
    *8 ドイツの放射線防護令の付属文書鶲のC部2によれば、甲状腺は重要度わずか5%とされている。甲状腺の重要度がこのように低く評価されているのは、甲状腺がんは非常に手術しやすいという理由によるものである。
    *9 325.5 kg/年 x [100 Bq/kg x (2.1E-8 Sv/Bq Cs-137 + 2.6E-8 Sv/Bq Cs-134) + 50 Bq/kg x 2.3E-7 Sv/Bq Sr-90 + 0.5 Bq/kg x 4.2E-6 Sv/Bq Pu-239] = 6mSv/年
    *10 414 kg/年 x [100 Bq/kg x (1.2E-8 Sv/Bq Cs-137 + 1.6E-8 Sv/Bq Cs-134) + 50 Bq/kg x 7.3E-8 Sv/Bq Sr-90 + 0.5 Bq/kg x 4.2E-7 Sv/Bq Pu-239] = 2.8mSv/年
    *11 540 kg/年 x [100 Bq/kg x (9.6E-9 Sv/Bq Cs-137 + 1.3E-8 Sv/Bq Cs-134) + 50 Bq/kg x 4.7E-8 Sv/Bq Sr-90 + 0.5 Bq/kg x 3.3E-7 Sv/Bq Pu-239] = 2.6mSv/年
    *12 648.5 kg/年 x [100 Bq/kg x (1.0E-8 Sv/Bq Cs-137 + 1.4E-8 Sv/Bq Cs-134) + 50 Bq/kg x 6.0E-8 Sv/Bq Sr-90 + 0.5 Bq/kg x 2.7E-7 Sv/Bq Pu-239] = 3.6mSV/年
    *13 726 kg/年 x [100 Bq/kg x (1.3E-8 Sv/Bq Cs-137 + 1.9E-8 Sv/Bq Cs-134) + 50 Bq/kg x 8.0E-8 Sv/Bq Sr-90 + 0.5 Bq/kg x 2.4E-7 Sv/Bq Pu-239] = 5.3mSv/年
    *14 830.5 kg/年 x [100 Bq/kg x (1.3E-8 Sv/Bq Cs-137 + 1.9E-8 Sv/Bq Cs-134) + 50 Bq/kg x 2.8E-8 Sv/Bq Sr-90 + 0.5 Bq/kg x 2.5E-7 Sv/Bq Pu-239] = 3.9mSv/年
    *15 Nussbaum, Belsey, Köhnlein 1990; 1990年10月4日付Strahlentelex 90-91を参照。

     

    [付記:チェルノブイリ原発事故後の経験に基づいてなされた本提言の厳しい内容と比べると、日本政府によって出されて来ている様々な指針・見解は、いかに放射線リスクを過小評価したものかが際立ちます。本提言は、3月20日の時点で出されたものであり、また、日本での地域的な違いが考慮されていないなどの制約があるかと思いますが、内部被曝を含めた放射線リスクの見直しの一助となることを心より願います。なお、*イタリック部分は、原文の意図を表現するため、ドイツ側関係者の了承のもと訳者が追加したものです。
    この日本語訳は、呼びかけに直ちに応じてくださった以下の方々のご協力で完成したものです。心よりお礼申し上げます。ただし、翻訳の最終的責任は松井(英)と嘉指にあります。
    (敬称略・順不同)内橋華英、斎藤めいこ、佐藤温子、高雄綾子、中山智香子、本田宏、松井伸、山本堪、brucaniro、他二名。

    松井英介(岐阜環境医学研究所所長)
    嘉指信雄(NO DUヒロシマ・プロジェクト代表)]



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